子どもはガラッと変わる。在宅医療に対するマインドを変えたい!


小児在宅支援センターは、医療的ケアの必要な子どもの支援者の育成を行うため開設されました。様々な子どもの支援に関わる人が、センターの職員から直接指導を受けながら、訪問診療の技術を習得していきます。

小児在宅支援センター副センター長の玉崎章子医師に話を伺いました。

子どもの支援者のバックアップを

「在宅医療というと、高齢者のイメージが強いと思いますが、必要とされているのは高齢者だけではありません。例えば呼吸器がないと生きていけない子どもや、チューブで栄養をとらないといけない子どもなど、在宅医療が必要な子どもが増えてきています。20年、30年前は病院で過ごしたり、入所できる施設に転院するのが当たり前でしたが、今は家に帰る態勢をつくっていく流れになっています。
そうすると、親御さん、特にお母さんが中心になって介護や子育てをします。でもやっぱりお母さんだけではしんどいので、それをどうサポートしていくのかが、全国的に課題になっています。

訪問看護や訪問リハビリ、デイサービスなどの支援者も高齢者の対応は慣れていますが、子どもの支援には慣れていない。その支援者のバックアップを目的として、小児在宅支援センターは始まりました。

子どもをみる中で、『怖い、分からない』という恐怖感や不安感は、誰にでもあると思います。でも、少しずつでいいから知ってほしい。関わることで子どもの反応は全く違ってきます。」

様々な関係者が現場で学ぶ

「小児在宅支援センターの活動は、訪問看護師さん・訪問リハビリさん・医学療法士さん・訪問診療の先生・内科で主に高齢者を診ている先生・特別支援学校の先生・学校の看護師さんなどが一緒に参加されています。

トレーニング方法は主に3パターンあります。一つ目はセンターの職員と一緒に訪問診療や訪問看護に行く。二つ目はセンターの職員が学校や保育園、デイサービスに行く。三つ目は支援者の方に病院の外来に来ていただいて勉強してもらう。そうすることで、支援者や子どものニーズを支援者の方々と一緒に考えながら行っています。」

小児在宅支援センターでの人材育成の特長は、OJTという実務を通じたトレーニングを実施していることです。

「勉強というと机の上でするもの、またはグループディスカッションなどをするイメージが強いかもしれません。でもここでは、現場でその子のケアを一緒にしながら、トレーニングをすることが大きな目玉になっています。」

支援する人も自信が持てなくなる。

増えてきている子どもの在宅医療。子どもには大人にない難しさがあって、支援できる人が増えていないのが実情です。

「高齢者と子どもの違いは、大きくなっていくことです。当然ですが、保育園に行く時期があり、学校に行く時期があり、ライフステージが劇的に変わっていきます。成長するにしたがって、関わる支援者の職種が多くなります。また、中学生・高校生は合併症が出てくる時期でもあり、成長する過程で病気自体が難しくなることもあります。
子どもの成長は早い。こうしたらこんな反応が返ってきた。でも次の日はまた別の反応が返ってくるという感じで、状況が日々変わっていく。だからこそ支援する側は、自分がやっていることが本当にこれでいいのかどうか、自信が持てなくなっていきます。そこに私たちが入らせていただくことで、『それでいいですよ』『こうしてみたら、もっといいですよ』など、一緒に考えながらサポートすることができます。」

子どもはガラッと変わる。すごいんですよ。

「やっぱり病院に長い間入院して大きくなっていく子どもよりも、地域に帰っていろんな人と関わって大きくなっていく子どもの方が、断然発達が早い。できることも増えてくるし、表情も良くなっていきます。格段に違う。この醍醐味ですよね。それをぜひ感じてほしい。子どもはガラッと変わる。すごいんですよ。」

ガラッと変わっていく子ども。その可能性に驚いたと玉崎医師は語ります。

「ベッド上で呼吸器をつけてコロンコロンと寝返りするのが精一杯だった子が、一般病棟に出たらつかまり立ちを始めたので、『そんなことできるの!?』と驚いてしまいました。そして退院したら、つたい歩きもハイハイもできるようになりました。
やっぱり環境は大事です。病院は限られた空間の中ですし、刺激もありません。命を守るということは大事ですが、だからといってずっと病院にいて良いはずはないと思います。
重たい心臓病があって、いつまで生きられるかわからないという状況で、お父さんお母さんが在宅医療を選んで日々過ごしている方もいらっしゃいます。子どもですからやはり成長します。子どもの表情が豊かになった。できないと思っていた寝返りができるようになった。おもちゃに手が伸びるようになった。そんな子どもの成長から保護者や支援者は幸せをもらっています。」

家族の戸惑い

「でもご家族に戸惑いが生じることもあります。医者は『いつまで生きられるかわかりませんよ』という話をご家族にしますが、子どもは頑張っていて少しずついろいろなことができるようになっていきます。家で看取るつもりで帰ったのに、逆に子どもは伸びていく。もちろん良いことではありますが・・・、保護者や支援者の中に戸惑いが生まれ、混乱してしまう方も少なくありません。

子どもの発達はうれしいことですが、ご家族には戸惑いが生じてしまう。うれしいことだから余計に難しいと玉崎医師は語ります。

「そこが子どもの難しいところで、病状にもよりますが、下向きに向かうこともありながら、上に伸びていくところもある。それによって、家族は目標を見失い、迷いが生じ、混乱する。そして、欲が出てきます。その欲が、ご家族にとってしんどいこともあるんですよね。
それが、在宅の難しさでもありますし、命の可能性を伸ばす在宅のすごさだなと思います。」

今までは小児の訪問診療がなかった。

まだスタートしたばかりの活動ですが、徐々に広がりを見せています。
「2016年の11月に立ち上げ、2017年の4月から実際にスタートし、今は15施設・約90名が参加しています。このプロジェクトがスタートしたことで、訪問診療ができるようになったことが今までとの大きな違いです。
日々の管理やちょっとした薬をもらうために、病院に行こうと思ったら大変なんです。例えばあるお子さんは、出掛ける時に呼吸器・モニター・吸引器など、たくさんの荷物を持っていく必要があります。さらに、お母さんが運転中に『あっ、子どもの吸引しなきゃ』と思いだし、焦って事故を起こしてしまう危険性もあるので、絶対一人では子どもを連れて行けない。
だから訪問診療の先生が家に行ってくださることで、ちょっとしたことの対応ができるようになりました。今まで全くなかったそういった連携が取れるようになったことが、医者の私からすると一番大きいなと思います。」

大きい職種の壁

順調にスタートをきった小児在宅支援センターの取り組みですが、子どもに関わる職業によって見方や考え方が違う「職種の壁」があるといいます。

「医療と福祉と教育の壁があり、一般的に職種が違うと連携しにくいと言われていています。同じ子を見ているのに、見方が違うと表現の方法も違うし、ゴールとしているところも違う。それが当たり前。それでも一人の子どもをみているわけですから、向かっているところは一緒にしたい。そのためには、お互いの違いを認め、歩み寄って話ができる体制作りが大切になります。なので、私たちが携わることで、職種の垣根をひゅっーと下げて、お互いの話ができるようになると良いですね。」

また今後の目標について玉崎医師が話してくれました。
「現在、鳥取県の西部・中部の患者さんはカバーしていますが、これからは東部地区の体制も整えていきたいと思っています。まだスタートしたばかりではありますが、支援させてもらった支援者が次の世代を育てるような、裾野を広げていく取り組みをしたいと思っています。」

在宅医療に対するマインドを変えたい

玉崎医師が目を輝かせて、子どもたちの成長を語る姿から、心の底から子どものための医療を提供したいという気持ちが伝わってきました。

「支援者やご家族が、病気のことしか見ていないと在宅医療のことが考えられません。もっと裾野を広げていくマインドを持つことで、小児在宅医療に対する考えも変わってくると思います。小児在宅医療が重要なことはみなさんわかっているので、5年後、10年後を見据えて、少しずつ人と人をつなげ、そこからどんどん輪が広がっていくといいなと思っています。」

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